新米個人事業主はじめの一歩【帳簿記録】

これまでの説明から、青色申告と白色申告のいずれも、帳簿記録とその関連書類を保管することがお約束だということがわかりました。そして、両者の違いは、求められる記録の程度(単式簿記か複式簿記か)と、保管すべき書類の範囲が異なっている、ということでしたよね。

今日は、単式簿記と複式簿記の違いを明らかにします。

単式簿記と複式簿記の違い

● 単式簿記

単式簿記は、取引の一面のみを記録する方法です。

たとえば、モノを売って、現金が増えた場合を考えてみましょう。

モノを売ったという取引の一面

売上として、売上帳に記入する

 

現金が増えたという取引の一面

現金増加として、現金出納帳に記入する

単式簿記の場合、「売ったので、現金が増えた」という取引内容は、売上帳に「現金による売上」や、現金出納帳に「売上による入金」という内容を摘要欄にメモとして記録しているなら、あとから見ても、その内容はわかります。

でも、もし「現金による売上」という記載がなければ、売上といっても掛売上なのか、現金売上なのかがわかりません。同様に現金出納帳でも、「売上による入金」という記載がなければ、増加した現金は、何が原因で増えたのかがわからなくなります。

ところで、おこずかい帳をつけたことはありますか。おこずかい帳は、単式簿記の典型例です。おこずかいの増減とその残高を記録したものですが、あめを買っておこずかいが減ったり、おじいちゃんからお年玉をもらっておこずかいが増えたり、このおこずかいの増加減少の内容を摘要欄に記載しましたね。いつの間にか何に使ったかわからなくなって、なかなか続かないものでしたが…

● 複式簿記

これに対して、複式簿記では、この現金でモノを売る取引を、原因と結果の対の関係として記録します。なので、必ず、二つの科目と金額に記入します。

モノを売って現金が増えた

借方)現金 貸方)売上 という記入になります。

取引ごとのこの対の関係の記録を「仕訳」といい、これらを記入するのが仕訳帳です。

仕訳帳の仕訳は、売上元帳と現金元帳に転記します。売上元帳では、現金による売上増加ということがわかり、現金元帳では、売上による現金増加ということがわかります。取引の両面が、それぞれの元帳から把握できますし、現金元帳の残高を手元の現金在高と一致させることにより、実態を正確に表すことができます。

また、借方、貸方という言葉に、戸惑いを感じるかもしれませんが、これに特に意味はなくて、仕訳記入するときに、右側か左側に記入するかというお約束を知らせる目印のようなものです。

この右側か左側かということは、実は簿記のルールとしてとても重要なのです。たとえば、預金通帳を見てください。預金通帳の記載は預金の増加と減少そして残高を表しています。預金が増加したら右側のお預かり金額に記載されますし、預金の減少は左側のお支払い金額に記載されます。この並べ方は意味があったのですね。

そして、この左や右に何の科目を記入すべきかという簿記のルールについては、若干の知識や経験を要するところでもあります。

事業所得の金額をどちらで記録するか

ここで、もう一度所得税の計算方法を思い出してみましょう。

税金計算に必要なのは、以下の算式でした。

事業所得の金額=事業収入-仕入・必要経費

単式簿記の事業収入は、売上帳の合計額になります。売上の結果、現金や預金がどれだけ増えたかまでを考慮してはいません。売上帳が正確に記入されていれば問題ありませんが、売上帳の記録間違いや記入もれがあっても気づきにくいといえます。

複式簿記の事業収入は、総勘定元帳の中の、売上高元帳の合計額になります。この場合、売上という原因によって、その結果である現金や預金、手形がどれだけ増えたかということもわかります。現金や預金、手形の動きと整合させるので、間違いが発生しにくいとも言えます。

つまり、事業所得の金額を集計するのに、売上や仕入・必要経費の金額のみ集計するのか、それともその結果であるお金(現金や預金)の動きと整合させてより正確に網羅的に集計するのか、ということの差にあるといえます。

記録の負担

あともう一つ付け加えるなら、複式簿記では、年のはじめあるいは事業開始時に、事業用の財産及び負債と、それ以外の財産及び負債に分けて貸借対照表に記載することになります。

この作業は、長い間、事業をやっていて、事業のモノと個人のモノの区別がわからなくなっている場合や規模の大きい事業主にとっては、難しいかもしれません。

でも新米事業主の皆さんでしたら、今年新しく始めたばかりなので、この区分はそれほど難しくないのではないでしょうか。

また、今の会計ソフトは複式簿記を前提に作られています。事業用に預金口座を決めておけば、そのデータを取り込むことで、残高については間違うことなく記帳できてしまいます。仕訳についても、知識や経験がなくてもいたれり尽くせりのアドバイスがありますし、帳簿間の整合もとれているので、心配が少ないように思います。

入力さえできれば、申告書用決算書まで作ってくれる機能がついてる場合もあり、利用する価値があるのではないかと思われます。

まとめ

● 単式簿記は取引の一面の着目して記録する方法であり、複式簿記は、取引を原因と結果の関係にとらえて記録する方法である。

● 複式簿記は、正確性が高いが、ある程度の知識経験が必要である。しかし、会計ソフトを利用することにより、この点もクリアできる可能性が高い。

初めての場合、初年度だけでも、決算の全体の出来上がりについては、誰か会計に詳しい人や専門家に見てもらっておいたほうが、より安心かもしれません。はしもと会計でも、相談を受け付けますので、お気軽にご連絡下さい。