配当所得の申告はどうしますか?(続編)

昨日は、源泉徴収選択特定口座にある上場株式の配当(発行済株式総数3%以上保有する個人の上場株式については除きます)については、申告不要、総合課税、申告分離課税の3つの課税方式の中から選択することと、それぞれの所得税や住民税の3つの取り扱いについてまとめてみました。

今日は、多くの方が源泉徴収ありとした特定口座(源泉徴収選択特定口座)で配当も受け入れていることから、譲渡損益や配当所得について、課税方式の選択単位をどのように選択するかについて検討します。

課税方式はどのような単位で選択できる?

配当所得の課税方式の選択は個別の銘柄ごとに行うのではなく、次の基本ルールに従います。

● 源泉徴収選択口座の配当所得の金額を申告するかどうかは、源泉徴収選択口座ごとに選択することができます。

● 源泉徴収選択口座の譲渡所得の黒字の金額とその源泉徴収選択口座の配当所得の金額のうち、いずれかのみ申告することも可能です。

● 源泉徴収選択口座内において、上場株式に係る譲渡損失と上場株式の配当所得が損益通算されている場合で、その上場株式に係る譲渡損失を確定申告する場合は、その上場株式の配当所得も申告する必要があります。

具体例(ケース1)

このケースで選択できる課税方式を考えてみます。

①と②(上の図)と③(下の図)は、いずれも申告分離課税を選択してA特定口座の上場株式譲渡益とB特定口座の上場株式譲渡損失を損益通算する方法です。ただし、①は配当所得を申告不要とするのに対し、②は配当所得を申告分離課税、③は配当所得を総合課税とする違いがあります。

ところで、②ですが、今回の事例では、上場株式譲渡損失が上場株式譲渡益を下回っているため、あえて配当所得を申告分離課税で申告しなくてもよいように思えます。しかし、もし上場株式譲渡損失が大きくてとても上場株式譲渡益で差し引ききれないような場合は、配当所得を申告分離課税で申告し、配当所得からも損失を差し引く、ということもあります。

④は、上場株式譲渡益や上場株式譲渡損を申告不要とするものです。①、②、③に比して上場株式譲渡損益を通算しないので、株式譲渡利益の所得だけについて分離課税選択で申告した場合と比較するなら、所得税が大きく、住民税は小さくなることが予想されます。

もちろん、源泉徴収選択特定口座であれば、すべての上場株式譲渡益や譲渡損失、配当所得について源泉徴収が行われており、申告不要として申告しないことも選択できます。

具体例(ケース2)

これは先ほどのケースとは逆で、配当所得のある源泉徴収特定口座で上場株式譲渡損失が発生しているというケースです。

ケース2の①と②(上の図)は、いずれも申告分離課税を選択して上場株式譲渡益の発生している口座とは別の口座にある上場株式譲渡損失を損益通算する方法です。ただし、①は配当所得を申告分離、③は配当所得を総合課税とする違いがあります。

ケース1と相違するのは、配当所得を申告不要とすることができない、ということです。

具体例(ケース3)

最後に、譲渡損失がなく、配当所得のある源泉徴収選択口座に株式譲渡益があり、他に損益通算する株式譲渡損失がない、というケースです。

結局どんな選択がベストか?

もっとも適切な課税方式の選択については、生じている上場株式譲渡益や損失、配当所得の金額の多寡や生じている口座の区別だけでなく、各人の他の所得(たとえば給与所得、事業所得や不動産所得)や差し引く所得控除の大きさ等にも依存します。

さらに、上場株式等にかかる譲渡損失の繰越控除(申告分離課税を選択し損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額は、翌年以後3年間にわたり、確定申告することで、翌年以後の上場株式に係る譲渡所得の金額や上場株式の配当所得の金額から繰越控除できるもの)の特例もあり、この適用も視野にいれるなら、翌年以降の所得の状況も考えての選択となります。

つまり、個々のケースを具体的にあてはめて計算し、その結果を見た上で、ベストな課税方式を選ぶのがよさそうです。

まとめ

● 源泉徴収選択口座の上場株式譲渡損益や配当所得については、選択できる課税方式ごとに実際の数値を入れて所得税や住民税(場合によっては国民健康保険等の社会保険)に与える影響を計算する。その上でベストな課税方式を選択する。

源泉徴収選択特定口座の上場株式譲渡損益や配当所得以外にも、源泉徴収を選択しなかった簡易口座の譲渡損益や特定口座以外で受け入れた配当、さらに上場株式以外の場合はどうなのかも含め、様々な場合にわけて考えると、あたかもパズルのような気がしてきます。証券税制は奥が深く、たくさんの種類の所得をお持ちの方だと、悩みは尽きませんね。